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本・DVD・映画などの感想とか。 妄想したりネタバレしたりします。

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作者:桐野夏生
出版社:新潮社

★★★【総評価】


この本、結構薄いんですよね。
そして、新潟県柏崎市の少女監禁事件をモチーフに作られています。
モチーフというか、今風に言えばインスパイア?ってとこでしょうか。
内容は全く別物ですので、この事件の真相とかはもちろんありません。

さて、この本の内容は、1年監禁された経験のある女性が書いた手記のようになっています。

監禁された・・・想像がつきません。
作者桐野夏生が普通に想像だけでここまで書けるってのはさすが作家としか言い様がありません。
あ、もちろんこれは褒め言葉です。

ただ、賛否両論あるでしょう。

最後の主人公の本当の想いが、あまりにも犯人に都合よい、というか
なんというか。


この小説は、主人公である作家「小海鳴海」の夫が編集者にあてた手紙から始まります。

作家「小海鳴海」、本名北村景子は25年前の10歳の時、約1年監禁されていました。
その犯人である安倍川健治が最近出所し、北村景子に手紙を送った事で景子は失踪します。
なぜ失踪したのか、そして戻ってきたのかどうか、それはこの本の中に答えはありません。

その際、監禁された日々を赤裸々につづった「残虐記」という物を置いて失踪するのですが、
それがこの本の内容になっています。

監禁された1年、お風呂には入れず、トイレもおまるのようなもので済まし、
ご飯もケンジが持ってきてくれなければ何も食べられない。
そんな生活ではありますが、それ以外では大きな虐待を受けてはいなかったようで、
読んでいてもそこは安心できます。

でも、私が気になったのは、監禁されていた日々ではなく、
その後の日々です。

唐突ですが、誰でも内緒にされるとその内容を知りたくなるもんです。

電車や喫茶店で変な話をしている人が隣にくれば、
聞き耳をたてて、一語一句逃さないようものすごい集中力をみせたりします。
その集中力をもっと他で生かせばいいのに、と他人事に思うほどに。

それが、「監禁」という日常で起こりうる可能性が高い非日常で稀な事であればなおさら、
だれでもその内容を知りたいと思うでしょう。

確かに、景子は1年間の監禁生活はつらかったと思います。
しかし、本当につらいのはその後である、という事に私の興味はくすぐられてしまいました。

心配している、という名の好奇の目。
エロい事をされたに違いないと思いながらも、同情するフリの大人たち。

景子はまだ10歳。
親身になってるはずの警察や精神科医も疑い続け、心を開かない。
親は自分以上に憔悴しきっている。
誰にも自分のつらさを伝えられない。
その事に気がつかない10歳の景子は寝る前の空想にはまりこんでいく。
それは、ケンジとの生活や、ケンジの生い立ち。
その空想が爆発して小説家となる。

これは作者桐野夏生の空想があの事件を発端として
爆発したんだな、と思わせます。

自分が経験してしまった事には、それ以外の選択肢を思いつかせるというのは至難の業です。

昔聞いた話ですが、
「相談に上手に乗れる人は人生経験の少ない人だ」
というのがありました。
経験が少ないからこそ、いろんな想像力が働いて、答える事が出来るという事です。
ただ、それは相談者に沿った想像力。
経験をしたことないから、相手の立場に立つことはできない。
よって、相談者に都合の良い答えが返ってくるので、上手に相談に乗っている、と思うのです。
私もその経験がありました。

まだ人生経験の浅い頃、友達の相談に乗ってスラスラ答えていた事があります。
でも、いろんな経験をしてしまうと、相手はどういうつもりでそのような事を言ったのか、
それがわかってしまい、相談者の都合良い返事はできなくなってしまうんですね。

自分語りをしてしまいましたが、

要は、経験をした事のない日常、それが桐野夏生の想像力を大いに刺激したんだろう、
という事が言いたかったわけです。
そして、それが主人公景子に投影されたんでしょうか。

ただ、この手記の最後、景子はケンジに恋をしていた、という締めに少しがっかりしてしまいました。
確かに密室であり、本当に他の誰もいない。
その上、たった10歳。
そこが景子の世界になり、そこに唯一現れる人間ケンジ。
それを恋だという勘違いが生まれる事はなくもないかもしれない。

でも、どうだろうか。

1年は長い。
しかし、彼女はそれから25年、普通の人としていろんな人に会い、世界は開かれた。
後にこの手記を書いて、それでもその時恋をしていた、と思うのだろうか。
ケンジとの王国を憧れるだろうか。
私はここに、経験していない人間の想像力の限界を感じてしまったわけです。
逆に、そのような事が本当であれば、私自身の経験していない想像力の限界なんだとも思います。

しかし、そんな私でも、この締めには賛否両論あるのは簡単に想像がつきます。
1年という長い間に愛が芽生えれば、それだけ大事にされたという事で、
第3者の赤の他人は勝手に安心するかもしれません。
もしくは、これを発表する事によって、「そんな不謹慎な!」と怒る人がいるのも想像がつきます。

それを避けるためにか、小説の最後に出てくる夫が書いた手紙に
改竄とも違う魅力的な「嘘」を吐いて、加工しております
とでてきます。
その後に
心理を克明になぞってはありますが
とありますが、結局どこまでが本当で嘘かわからないとあるわけです。
なかなかうまくごまかしてるな、と思ってしまったのは
私の心が汚れているからかもしれません。

ただ、犯人からも、夫からも「ゆるさない」と言われてしまう主人公。
そこがとてつものなく可哀想で、悲しい小説であったという印象になりました。

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