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本・DVD・映画などの感想とか。 妄想したりネタバレしたりします。

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作者:有吉佐和子
新潮文庫


★★★★【総評価】
★★★★★【やり手】
★★★★★【うまい】

これはもう作家先生と呼びたくなるほどのテクニックやプロット作り、
その他いろいろ(よくわからんので、濁す)全てを使った傑作だと思います。

のっけからべた褒めですが、
まず、主人公であるはずの女性「富小路公子」本人は出てきません。
彼女について、関わった人たちが話をする、という趣向です。

最初に彼女は死んでしまいます。
しかし、事件なのか事故なのか自殺なのか、全くわかりません。
しかもものすごいやり手女実業家の死だけあって、
マスコミが騒ぎます。

しかし、彼女の噂はまちまちで、
本当の彼女をについての本を出そうと一人の記者がいろんな人に
聞きまわる、というのがこの本の筋です。


まず、人によって彼女の印象が全く違います。

しかし、大方の人は細くて、声が小さくて、とても上品な女性だったと思っています。

彼女は小学生の頃から嘘をついていました。
自分の親は本当の親ではない。
由緒ただしい所の娘だが、事情があり養子に出されたのだ、と。

この頃から彼女の人生を賭けた壮絶な戦いが始まっていたんですね。

しかし、やり手。
17歳で妊娠し、「あなたの子です。でも、私が1人で産んで育てます」と言ってまわった人が3人。
それから1年もしないうちに二人目を授かり、これまた同じように言ってまわります。

それにより、莫大な慰謝料を受け取ったり、店を1軒もらったりと使えるものは使う、という
並々ならぬ根性が見えます。

しかもこの3人、彼女は処女だった、と言います。

人間、経験があればその経験を思い出して再現する事は可能です。
経験のないものを想像で再現するのは困難ですよね。
ってことは。
彼女の本当の処女喪失はいつだんたんでしょうね?
だいぶ早かったと思われます。

話は進み、いろんな人間が出てきますが、
それほど誰にでも体を開く、というわけではありません。
誰にでも枕営業はしませんよ。
どっかの大人数の女の子グループとはわけが違います。
なんせ、彼女は1人っきりでの大勝負ですからね。
しかし、ここぞ、というときは体を開き、しかも相手によって声のボリュームを変える、という
大技を繰り出します。

他の女性には「私は苦労なんてしてませんの。美しい物だけを集めてたらこうなったんですわ、オホホ」と
控えめに笑い、その両手には大きい宝石を輝かせ、弱そうな女を演出します。

しかし、女性ばかり集まるサロンでみんなでマージャンをすれば、わざと負けて大金を惜しげもなく払い、
この人はお人よしなんでは?と思わせつつ、芸者あがりだとわかれば偽者の宝石を売りつける、
挙句の果てには同じようなサロンを作って、もともとあったサロンより売上を伸ばすという
計算高さ、商売根性は素晴らしいです。

さらには、都合が悪くなれば犬を殺し(生きていますが、世間的に)、
自由自在に涙を流し、貧血を起こしてぶっ倒れる、という裏技もございます。

結局、この本を読んでも、彼女の本性は全くわかりません。

もちろん彼女本人は出てきませんから、本当は何を考え、
何が真実で、何が彼女をそうさせていたのかは謎のままです。

なので、彼女の死因もわからずじまいです。

しかし、私は自殺だったのではないか、と思っています。

なぜそう思うか、二つの理由があります。

まず一つは全て彼女のシナリオ通りだったのではないか、と言う事です。

小さい頃、自分の親はどこかの大金持ちである、という夢を見始めた頃から
どのようにしてのしあがり、子供を作り、そして死んでいくのか。
そこまでの筋書きが彼女の中にあったように思えます。
そこで謎のまま、美しいまま死んでいく。
彼女の存在は謎が多いだけに深く刻まれ、そして老いていくことはなくなる。

美しい物が好き、と言っていた彼女にとって、
自分が醜く老いていく事は許しがたい事だったのかもしれません。

そして次に。

最後の方で明らかになりますが、ある男性と婚約をします。
それは、自分で開いたサロンの従業員であり、若い男です。

同時期に少女の頃から付き合っていた男性が、海外からの赴任を終え、日本に帰ってきます。

これはどうしてもかち合ってしまいます。

都合が悪くなれば、いくらでも殺してしまう(世間的に)人ですから、
自分自身を消してしまうのも厭わないように思えます。

そして今が散り時、と思ったのかもしれません。

殺されたという可能性も、ただ単に足を滑らせた事故の可能性も捨て切れませんが、
これだけの策略家です。

しかも、自分を「富小路公子」という作品として作ってきた人です。

自分自身が死ぬ、という一番の大舞台を不意にするとは到底思えないのです。
彼女は「富小路公子」という作品をそう簡単に、なんの策略もなく終わらせるとは思えないのです。


さて、この主人公の人生は幸せだったのでしょうか。
自分自身の性格すらもプロデュースし、本性を誰にもあらわさない。
誰も信じず、愛さず、実の親、実の子供ですら武器として使う。
何を望み、何を欲したのでしょうか。
そして、本当に満たされたのでしょうか。


もちろん答えはわかりません。

でもきっと、これだけ頭の良い彼女が唯一できなかった事。
それは誰かに心を開く事だったのでしょう。
それは可哀相な事かもしれません。
しかし、彼女にとってそれは取るに足らない、どうでもいい事だったのかもしれません。

何が幸せで、何が不幸なのか。

私にはわからなくなってしまいました。
しかし、一番心に残ったのは、人間のする事はなんて儚く愚かなのか、と言う事でした。

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