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作:松本清張

あらすじ:
自宅を放火して夫を殺害、財政界の黒幕・鬼頭の愛人となった民子。放火の容疑者として民子を追う刑事を中心に“けものみち”に迷い込んだ彼女の辿る運命を描く。

★★★★【総評価】
★★★【エロ】
★★★★【不気味】
【笑い】


この話しのイメージは「夜」。
話しの中には朝もあるし、昼もある。太陽が出てる時もある。
しかし、ここそこに「黒い闇」をまとっている。
そんな不気味な話しです。

で、不気味なのがもう一つ。
この話しの主人公は一体誰だろう?という事。

成沢民子という女性が最初から出ずっぱりではありますが、
いろいろ起きる事件の真相は知りません。
読み進めるとどうやら民子は主人公の器ではないんですね。
っていうかバカ女。
結局主人公は不在です。

ちなみに私は小説というものをほとんど通勤時間に読んでます。
だから、朝からダーク。
冒頭書いたように、「夜」なイメージの本を朝に読む。
なかなかオツだな、と自分に思い込ませながら顔を上げた時、
電車から見えた富士山のさわやか過ぎる眩しさが印象的でした。


まず、民子と言う女性は治らない夫を抱え、生活は民子が支えており
出口のない未来に絶望しています。
そこへ小滝という男に出会い、一筋の光にすがります。
そして、その光を掴むために、夫を焼き殺します。
この「光」は鬼頭という裏の世界の大物のオモチャになる事でした。

うーん、卑猥。
「けものみち」という題名がすでに頭をよぎります。
題名の秀逸さが光ります。

でも、松本清張はエロに関してほとんど直接的なことは書きません。
下手な作家が書けば三文エロ小説に成り下がりそうです。
しかし、そうはさせない清張。
清張が書きたいのはエロではないのだ、とひしひしと伝わってきます。
ただ、直接的なことを書かない代わりに読み手の想像はものすごい膨らみます。
あ、もちろん、読み手とは私のこと。
そりゃ朝からもの凄い想像が膨らみましたよ。
それも、鬼頭のプレイの一つかもしれません。

ま、そんなこんなでこの火事で久恒という刑事が動きます。
この火事に事件性はないと警察は断定しますが、久恒は民子を怪しみます。
それ以上に民子の魅力にノックアウトなんですね。
民子を犯人にするために動き回るのではなく、民子の弱みを握って
あんな事やこんな事をしたいんです。
最低な刑事ですね。
そのツケは回ってきます。鬼頭に深入りしてしまったんです。

その他、鬼頭の右腕となって動き回る秦野や女中頭の米子などがいます。

鬼頭の屋敷は不気味です。
大物政治家や警視庁長官などがひっきりなしにやって来て鬼頭と密談しています。
しかし、それを聞かせてもらえない民子。

この小説は民子目線、久恒目線、俯瞰からの目線、この3つで成り立っているのですが、
民子目線では、何も教えてもらえないので、複線ばかりが貼られます。
久恒が調べ役で動き回りますが、分からない事だらけ。
鬼頭、秦野、小滝、と表沙汰に出来ない事が多すぎるんです。

しかし、民子、うざい。
民子は小滝の事が好きなんですが、小滝は全くその気なし。
一回寝たくらいでもう彼女面です。
とにかく嫉妬嫉妬嫉妬。
何かったら、「女がいるんでしょ?」
「今の電話、女からでしょ?」
「これから女が来るのね!私帰らない!」と
ウザイ事山の如し。
これでは焼き殺したくなるのも当然です。
だいたい、小滝は一度も「好きだ」とは言わなかったわけです。
「好き?」と聞かれて「ああ」と答えはしましたが、
それは友達として好きなのか、子分として好きなのか、いろいろ取れますね。
なかなかのやりチンです。
それでも鬼頭の寵愛するオモチャですから、迫られたら拒否する事は出来ません。

さらに鬼頭や秦野に対しては、
「私の将来なんとかして」
「老後が心配なの」
「遺産を分けて」
「小料理屋を持たせて」
そんな事ばっかり言ってます。
怖いじいさんなのに、よく焼き殺さなかったと思います。

しかし、民子ってバカなんだなー。
小滝にそそのかされ夫を焼き殺し、じいさんのオモチャになり、
結局カゴを変えただけのインコなんですよね。
いきがってますけど。

そんなバカな民子が馬鹿げた事ばかり言ってる間にも、
鬼頭や秦野、小滝は裏で動き、政界や暴力団を動かしています。

さて、最低エロ刑事久恒ですが、民子にはまったために、
知らなくていい情報を知ってしまいます。
しかし、ここで止めときゃよかったのに、捜査一課の係長に上から止められていた事件の一部をばらします。
これも自分の点数稼ぎのためです。
おかげで解雇になります。
私利私欲で動くとこうなるという見本ですね。
さらに、解雇になった腹いせに鬼頭関係の情報を新聞屋に売ります。

というか、久恒ほどの刑事なら、新聞屋も鬼頭の息がかかってるって事ぐらいわかりそうなもんですが。
もうテンパちゃってんですかね。
おかげで消されます。
ああ、さようなら久恒。
あんた、最後まで良いヤツとは言えなかったね。

最終的に鬼頭は死にます。一応病死です。
次いで秦野も死にます。これは殺人です。
ナンバーワン、ナンバーツーが一気に死にました。
鬼頭勢力はもう崩壊です。

では、次の鬼頭は誰なのか。

後死んでいない物は、
小滝と民子。

自分達の身が危ない、と寂れた連れ込み宿へ二人は隠れます。

民子は怖い怖いと言いながらも小滝と二人なので浮かれポンチです。
だいたい、追われてる身なのに、小滝と「温泉行きましょう」って。
どこまで能天気なんでしょうか。
「奥日光や塩原とか行った事ないから行きたーい」とか、
「ホテルの支配人してたから、一室ぐらいどうにでもなるでしょ?」とか。
見つかるっちゅーの。
ポンチ民子は度胸が座ってるなどと言われていましたが、やっぱりただ単にバカなだけでした。

そんなバカな民子はお風呂場で焼き殺されます。
直接手を下したのは黒谷という小物ですが、もちろんその裏には小滝。
黒谷は小滝に引っ張り上げられる夢を見ていたんでしょう。
鬼頭のじいさんは先が長くない。それなら小滝に付いた方がいい。
ただの汚い使いっ走りから、小滝のナンバーツーくらいにはなれるかも!と。
しかし、黒谷もまんまと自分が撒いた火の海から出られず一緒に焼き殺されます。

ここでこの小説は終わります。 

そう、小滝の一人勝ちです。
鬼頭に取って代わるであろう大物の懐にも既に入っている様子。
多分、小滝はその大物に貸しができたので、未来は鬼頭より大物になるでしょう。

結局小滝は誰も愛さず、誰も信じていませんでした。

ここで小滝の素性は明かされません。
本当に小滝と言う名前なのかすら、怪しいもんです。
鬼頭はなぜこのように勢力を拡大してきたか、秦野との関係などは明かされます。

鬼頭のお屋敷は不気味でしたが、最後の最後で不気味なのは小滝です。

冒頭で主人公が誰だかわからない、と言いましたが
一人生き残った小滝はなんだかよくわからないし、
出ずっぱりの民子はバカ女として死んで行くし、
事件の真相を調べる最低エロ刑事は途中に死んじゃうし、
鬼頭や秦野は論外だし。

とにかく、不気味なものばかり出てくるこの小説で
一番不気味なのは、このような作品を作った松本清張です。

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